同族会社の家族名義株式Q&A

 Q1.  相続税の調査において、同族株式について調査がされ、長男名義の株式5000株について、名義株ではないかとして、説明を求められました。
それについて、株主名簿が不備であったので、会社の取締役会議事録を過去に遡って確認したところ、相続開始日から7年より以前の取締役会議事録に、当時の社長である被相続人の持株のうち5000株を相続人である長男(当時専務、現社長)に対し贈与することを承認する記載がありました。
当該取締役会議事録によって既に贈与済みであると認められますか?なお株式は発行されておらず、配当は直近10年間無配です。

 A  当該取締役会議事録があるだけでは、贈与の事実は認められない可能性が高いと思われます。

1.贈与契約についての取締役の承認は、贈与の効力発生の必要条件ではあっても十分条件ではありません。すなわち、贈与契約が現実に締結されることが必要です。したがって、当事者間の贈与契約書の作成されていることが必要です。

2.本件のような事例で、贈与があったことを立証するとしても、株券不発行でかつ無配の場合のなので帰属の判断要件に該当するような事実を具体的に残す方法がないことから、株主名簿を適切に作成・管理した上で、贈与があったとつど贈与者が贈与税の申告をするほかないと考えられます。

3.なお、補足しますと、当該取締役会議事録が的確に会社の取締役会議事録の保管綴りに日付順に保存されていることが必要です(抜き出さないこと)。
事後的に作成されたものでないことを立証する方法が他にあれば別
ですが、時期的に前後の取締役会議事録の間にキチンと保管されているだけでなく、作成様式や押印している取締役の押印も不自然でないかどうか確認され、不自然なことがあると、仮装ではないかとの疑問を持たれる可能性があります。

 Q2.  相続税の調査において、同族株式の保有状況について、「昭和55年の会社の設立時に高校生であった長男は、出資金50万円を負担することができなかったのではないか、そうすると当該1000株は、形式的に長男名義としただけではないか」と調査担当者から質問されました。
これについて、長男は、お年玉などで貯金した資金で払い込んだと思うという説明をしましたが、認められるでしょうか。

 A  長男に帰属すると認められない可能性が高いと思われます。お年玉を貯金したという説明はよくあるのですが、実際にお年玉を貯金した通帳が残っている等の証拠がない限り、客観的な証拠とは認められないと考えます。

1.株式の帰属については、事実関係によって判断は難しいのですが、名義預金についての判断と同じであると考えられます。

2.したがって、まず原資の負担者に帰属するとされ、その後に贈与などがなされない限り、原資の負担者に帰属することとなると解されます。

3.ところで、資産を蓄積できるほどの収入があるとは考えられない高校生の場合は、実際に資産を蓄積していた事実を立証しない限り、原資の負担者は収入のある親であると推認されることになり、名義株であるとして相続財産になると考えられます。

4.このように原資は親が負担したと認定されるとしても、その後に当該株式が贈与されたという事実があれば、長男に帰属することになるのですが、その贈与の事実の立証が難しいわけです。株式が発行されていれば、株券を交付することで贈与することも原理的には可能ですが、同族法人の場合は、株券を発行していても法人で保管していたりするなど、具体的判断が困難であることが多いようです。

5.以上のことから、相続開始時において、同族会社の株主構成をみて、相続人の持株がある場合には、その取得の経緯を調査し、途中で贈与や増資で取得した場合はともかく、設立時に学生である相続人が設立時から保有していたような場合には、注意が必要です。また現実に、このような場合であるならば被相続人の生前に対策をしておく必要があったということもできます。

 Q3.  相続税の調査において、同族会社の株式を被相続人と配偶者、長男、二男が保有していたが、二男名義の株は、当該会社を設立時から二男名義であるところ、設立時は小学生であったので、調査担当者は資金負担能力はないから、名義株ではないかと指摘しました。
それに対し、名義人である二男は、過去5年の配当が、自分名義の預金口座に振り込まれているから、当該株式は自分に帰属すると主張しました。また、当該配当については、確定申告をして配当控除を受け、それが認められていることからも、当該株式は自己に帰属すると主張しました。
これらの主張は認められますか?

 A  認められない可能性が高いと考えます。設立時の払込資金を負担した事実(負担できるだけの資力があることの客観的証拠)が必要です。

(説明)

1.配当金は株式の名義人に対し支払われるところ、名義が必ずしも株式の帰属と一致するわけではありません。ところで、配当金の収受は、株式の所有者を判定する要素ではありますが、それは、株式を取得する原資の負担者を推認する間接事実と解されます。すなわち、通常は原資を負担した者が配当を収受するであろうちおうことから推認が働くわけです。

2.しかし、原資の負担者が認定できる場合は、収益の帰属という間接事実が優先して判断されるということにはならないのは言うまでもありません。原資の出捐者、管理・運用の判断ができないときに、収益の帰属で判断することになるのですが、原資を負担したものが誰か分かっているときは配当が払われているだけで判断を変えることはできません。

3.また、配当控除もその手続きが、株式の真実の所有者でなければできないものではなく、むしろ名義人が手続きをすることを前提としていることから、配当控除を受けている者が真実の所有者となるものではないと解されます。この場合も上記2と同様に、税務申告も取得資金の負担者を推認させる事実にすぎず、取得資金負担者が判明しているときにその認定を覆すものではないと解されます。

4.本件においても、名義人二男は資金負担が不可能であったことから、被相続人に帰属する名義株であったということになるので、途中で贈与されたという事実がない限り、被相続人の相続財産であるという結論にならざるを得ません。